豆知識
”新年を祝うもう一つのかたち” 『フィリピンのお正月文化』
フィリピンでは、年末年始は家族が集い、一年を締めくくり、新たな始まりを祝う大切な節目です。日本では静かに新年を迎えるのが一般的ですが、フィリピンでは年越しは一年で最もにぎやかな時間のひとつです。しかし、その背景を知ると、どの風習にも合理的で温かい意味があることが分かります。
本記事では、フィリピンのお正月文化を、象徴的な風習を中心にご紹介します。
年越しは「うるさいほど縁起がいい」

フィリピンでは、大晦日から元日にかけて「できるだけ大きな音を出す」ことが良いとされています。花火や爆竹はもちろん、車のクラクション、家庭内で鍋やフライパンを叩く音まで加わり、街全体が一斉に年を越します。
この風習には、「悪い運気や災いを音で追い払う」という意味があります。
スペイン統治以前から存在した民間信仰に、中国文化の影響が重なった結果とされ、現在でも多くの家庭で
自然に受け継がれています。
重要なのは、ここでの“音”が娯楽ではなく、新しい一年を守るための行為として位置づけられている点です。家族全員が同じ瞬間に音を鳴らすことで、「今年も一緒に無事に生きていこう」という無言の意思確認にもなっています。
なぜ丸いフルーツ? 「豊かさを呼び込む形の意味」

フィリピンのお正月を象徴する風景の一つが、円形フルーツを大量に並べたテーブルです。ぶどう、オレンジ、りんご、スイカなど、形が丸いものが好まれ、色や種類の豊富さも重視されます。
丸い形はコインを連想させることから、「お金が途切れず巡る」「収入が安定する」ことを意味します。特に12種類のフルーツを揃える習慣は、「一年12か月すべてが実りあるものになるように」という願いを表しています。
この習慣は単なる迷信ではなく、来年も家族に十分な食事を用意できるようにという現実的な不安と希望の表れでもあります。経済格差の大きい社会だからこそ、目に見える形で“豊かさ”を確認する意味合いが強いのです。
お米とお金を一緒に飾る理由は? ”生活を守るリアルな願い”

フィリピンでは、お米や米袋に紙幣やコインを差して飾る家庭があります。これは非常に象徴的な風習で、フィリピンの生活観を端的に表しています。
お米は日々の食事の中心であり、「生きるための基盤」です。一方、お金は仕事や商売、将来の選択肢を広げるための手段です。この二つを一緒に飾ることで、「食べ物にも収入にも困らない一年」を願います。
特に自営業者や商売を営む家庭では、この風習が大切にされます。信仰というよりも、生活を安定させたいという強い意思表示として受け継がれている点が特徴です。
真夜中にごちそうが並ぶ理由 ”Media Nocheという特別な時間”

大晦日の夜に家族で囲む食事は「Media Noche(メディア・ノーチェ)」と呼ばれます。スペイン語で「真夜中」を意味し、深夜0時前後に食べる特別な食事です。
テーブルには、レチョン(豚の丸焼き)、パンシット(麺料理)、ハム、チーズ、デザート、
フルーツなどが並びます。共通しているのは、「不足感を感じさせない量」であることです。
料理を多く用意する行為そのものが、「来年も食べ物が十分にある」という願いを表しています。
見栄や贅沢というよりも、未来への備えとしての食卓と捉えると理解しやすいでしょう。
全部は食べない?──「余裕」を残すという縁起担ぎ
「Media Noche(メディア・ノチェ)」とは、フィリピンのお正月(大晦日〜元旦)に行われる
伝統的な“年越しのごちそう・深夜の食事会”のことです。Media Nocheの料理は、すべてを食べ切らない
家庭も少なくありません。少し残すことは、「余裕」「満たされている状態」を象徴します。
これは、常に不足と隣り合わせで生きてきた歴史を背景に、「満たされていることを可視化する」行為とも
言えます。翌日に残り物を食べること自体も、新年を安心して迎えられた証として受け止められています。
服装も行動も縁起だらけ “新年のジンクスあれこれ”
新年を迎える瞬間には、水玉模様の服を着たり、ポケットにコインを入れたり、ジャンプをしたりする習慣があります。これらは一つひとつを見ると些細な行為ですが、「少しでも運を良くしたい」という気持ちの積み重ねです。
特に子どもが参加する点が重要で、家族の中で文化や価値観を自然に引き継ぐ役割を果たしています。
1日の流れで見る フィリピンの年越しと元日
フィリピンのお正月をより具体的に理解するために、大晦日から元日にかけての一般的な一日の流れを追ってみましょう。家庭や地域によって違いはありますが、多くの家庭に共通する過ごし方です。
12月31日 朝:年越し準備はここから
大晦日の朝、街はすでにお祭りムード。ショッピングモールや市場(パレンケ)には、人々が年越し用の食材やアイテムを買い求めて集まります。
・ 丸い果物(ぶどう、オレンジ、りんごなど)
・ 花火・爆竹(※現在は地域によって規制あり)
・ 新年用の赤やドット柄の服
「丸いものはお金=繁栄の象徴」とされており、丸い果物を12種類以上用意する家庭も少なくありません。
12月31日 昼〜夕方:家族総出で料理と準備
昼頃からは、家族で協力して年越し料理の準備が始まります。フィリピンでは年越しも完全に家族イベントです。
” よく並ぶ料理例 ”
・ パンシット(長寿を意味する麺料理)
・ レチョン(豚の丸焼き)
・ ハム、ケソ・デ・ボラ(丸いチーズ)
・ フルーツサラダ
夕方になると、親戚が集まり始め、家の中は一気ににぎやかに。
12月31日 夜:Media Noche(メディア・ノーチェ)
夜が更けるにつれ、年越し最大のイベント「Media Noche」の時間が近づきます。
Media Nocheとは、年が明ける瞬間に家族で囲むごちそうのこと。食卓には縁起物の料理がずらりと並びます。
この時間帯になるとテレビでは年越し特番が始まり、外では爆音レベルの音楽があちこちで流れ始め、
子どもたちも起きたまま待機をし街全体がカウントダウンに向けて一体感を増していきます。
1月1日 0:00:とにかく「音」で迎える新年
カウントダウンが終わった瞬間、花火・爆竹・クラクション・鍋やフライパンを叩く音など、
とにかくありとあらゆる音で新年を迎えます。
これは、「悪い運や悪霊を音で追い払う」という意味があり、フィリピンの年越し最大の特徴です。
1月1日 深夜:食べて、話して、眠らない
年が明けた後も、すぐには寝ません。
・ 食べ続ける
・ 写真を撮る
・ 親戚とおしゃべり
特に子どもたちは、高くジャンプすると背が伸びると言われており、大人は子供たちにジャンプするように
教えるのが昔ながらのしきたりです。またポケットにコインを入れておくと金運アップといった縁起担ぎを
実践します。
1月1日 朝〜昼:静まり返る元日の街
一夜明けた元日の朝。前日の騒がしさが嘘のように、街はとても静かになります。
店舗やレストランは休業、モールは午後から営業、道路はガラガラで多くの人が、家でゆっくりします。
前日の残り物を食べ、テレビやスマホでだらだらと過ごすという、超スローペースな元日を過ごします。
1月1日 夕方以降:少しずつ日常へ
夕方以降になると、徐々に外出する人も増え、親戚訪問をしたり近所で軽く外食など、
ゆるやかに通常モードへ戻っていきます。ただし、本格的な仕事始めは1月3日以降が一般的です。
在住者・旅行者向けの注意点
フィリピンの年越しは楽しい反面、日本人にとっては想像以上にハードな面もあります。
事前に知っておくと安心なポイントをまとめました。
騒音は想像の3倍以上
(1) 花火・爆竹・大音量スピーカーが深夜〜明け方まで続く
(2) コンドミニアムでも外音がかなり入ることあり
(3) 耳栓やノイズキャンセリングイヤホンがあると安心
ペット連れは特に注意
(1) 犬・猫は爆音に強いストレスを感じやすい
(2) 事前に部屋を閉め切り、音楽やテレビで外音を和らげる
(3) 必要に応じて獣医に相談(鎮静系サプリなど)
交通・移動の注意
(1) 12月31日夜〜1月1日早朝はタクシーが捕まりにくい
(2) Grabは料金が高騰 or 配車困難になることあり
(3) 空港・長距離移動は時間に大きく余裕を持つ
店舗・サービスの休業
(1) 1月1日は多くの店・役所・銀行が休業
(2) レストランやモールは午後から営業が一般的
(3) 必要な買い物は12月31日までに済ませる
年越しの騒がしさは1年で最も激しいレベルですが、それも含めてフィリピン文化。
事前に心構えがあれば、驚きではなく「体験」として楽しめます。
まとめ
フィリピンの年越しと元日は、日本のように静かに区切りをつけるものではなく、家族と集まり、音を鳴らし、食べて笑って新年を迎えるエネルギッシュな行事です。
爆音の花火や深夜まで続くにぎわいに最初は驚くかもしれませんが、その背景には「悪い運を追い払い、良い一年を呼び込む」という前向きな意味があります。
事前に騒音や移動、休業情報などを把握しておけば、ストレスではなく文化体験として楽しめるのがフィリピンの年越し。
在住者にとっても、旅行者にとっても、この独特な年末年始を知ることは、フィリピンという国をより深く理解する第一歩になるでしょう。